男鹿半島を吹く風は…… Essay
粟津 號(あわづ ごう)

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 寒風山の月見草 

   

 八郎潟を見おろす形で寒風山は立つ。標高355m、丘のような山だ。
 小学校4年の夏休み。寒風山の裏に「滝の頭
(たきのがしら)」という清水が湧き出る幻の泉があると聞き、親友と”探検”することにした。朝早く家を出発。ふたりが頂上に着いたのはお昼近くであった。醤油をつけて焼いたにぎりめしをほおばり、段ボールを尻にあてて滑ってはしゃぐ。そして、いよいよ「滝の頭」探訪だ。ウッソウとした林にくねくねと細道が続く。突如、「しゃあしゃあ」という水音が聞こえて、「幻の泉」は在った。ひんやりと寒く、水は怖いほどに透明で冷たい。極上の飲物であった。

 山が赤くなってきた。来た道を帰りたくはない。どうせ山は下ってゆけば麓だろう。草をかきわけてゆく。が、いつまでたっても見知った景色が出てこないのだ。焼きにぎりめしは頂上でたいらげた。来た道を戻るべきであった。ふたりは少し喧嘩した。黙って歩く。

 集落へ出た! 来たことのない村だ。聞くと、まるっきり反対へおりている。夕飯仕度の煙が立ち昇って、匂いも鼻に届く。
「腹へったなあ」
 スカンポの茎を噛んで歩き出す。ま、そのうち着くさ。気持ちは楽になっている。道に花が……。葉は砂ぼこりをかぶっているが、明るい黄色い花は、帰る道を照らしているかのようだった。
 パチーン! 母の「びんた」。
「今まで何処ほっつき歩いてた !? 警察にまで電話したぞ。このバカけ(ビシャ)、飯
(まま)くえ」

 昭和30年ーー八郎潟がまだ干拓されていないころの思い出である。夜の道に浮くように咲いていた黄色い花は「月見草」だと、あとで知った。             

『たのしい園芸』日本テレビ1990
注:文中の「月見草」というのは俗称で、正式名は「待宵草」である。「宵待草」とも云わない。

滝の頭。透明なので池の底がみえます。水面は水鏡に
 
  

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